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それを私が雄隆さんにいったのは結婚してから少し経った頃だった。
『あの、雄隆さん』
『ん?』
『……』
『なんだ』
『あの……もう隆成然先生の作品は書かれないのですか』
『は?』
『私、前にもいったと思うんですけど、隆成然先生の小説が大好きで……もっと読みたいなと思っているんです』
『……』
『以前、もう隆成然で本は出せないといっていましたけど、本にならなくてもいいんです』
『? それはどういうことだ』
『私だけに……たったひとりの読者のために何か作品を書いてくれませんか?』
『!』
『こんなお願い、失礼だと思っているし図々しいと思っています。でも……でも私はやっぱり隆成然先生の書くものが好きで、もう一度その世界に触れたいと思ってしまっていて……』
『……』
『この先、長い生涯の中で一度だけでいいんです。どうか隆成然先生の作品を読ませてください!』
『……』
『……あの……雄隆さん、怒りました?』
『──ふっ』
『え』
『ふはっ。君は……物好きだな』
『え』
『隆成然がそんなに好きか』
『はい!』
『即答か。妬けるな』
『妬けるって……隆成然先生は雄隆さんじゃありませんか。一緒です。同じくらい好きなんです』
『そこは東藤雄隆の方が好きだといって欲しかったな』
『~~~』
──というような会話があったのだ。
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