最終章 幸せな、未来来ました。

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そんなことを思い出しながら今一度手の中にあるものを見つめた。 其処には一冊の本。タイトルは【実り豊かな日々】、著者は【隆成然】。 「君との出会いから今に至る話を少しぼかしながら書いた自叙伝だ」 「自叙伝?」 「我ながら筆が進んであっという間に書き上げた。割といいものが書けたと思って旬堂出版の有城に出版出来ないか話を持ち掛けた」 「有城さんに?」 「あぁ。断ったら俺との約束を反故にした罪で脅迫してやろうと思ったが」 「約束を反故って……それって」 (あの盗撮のこと、だよね?) どうやら有城さんが酔った勢いで私の友だちの芽衣子に盗み撮りの件を話したことをまだ根に持っているようだ。 「脅迫するまでもなくすんなり出版OKの返事をもらってな。トントン拍子にここまで形になった」 「そうだったんですか……」 (それはきっと有城さんもいい話だと思ったからOKしたんだろうな) 雄隆さんの場合、知名度的にはモールス真語の方が高いから本を出すならモールス真語としてで、売れていない隆成然として本を出すのは中々難しいのだと思う。 それでも出版されるなんてただただ嬉しいとしか思えない。 「まぁ、これで正真正銘隆成然としての本はこれが最後になるかも知れないが」 「例えそうなったとしても私は嬉しいです」 そう、雄隆さんが隆成然として書いてくれたこの一冊は紛れもなく私の願いを叶えてくれたかけがえのない宝物だ。
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