第三章 美女に、迫られました。

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「……はぁ」 「四回目」 「うんにゃ、五回目じゃ」 「……え?」 不意にテーブルを拭く手が止まる。 「どうしたんじゃね、美野里ちゃん」 「今日は元気がないみたいだねぇ」 お店を開けてから一時間。開店早々いつもの常連客で店内には賑やかな話し声が広がっていた。 東藤さんに朝食を振る舞い食後にコーヒーを淹れて他愛のない話を交わしたりした後、お店を開ける三十分前に東藤さんは自宅へと戻って行った。 慌ただしく開店準備をしている間は余計なことを考えなくてもよかったけれどお客さんのおもてなしを済ませ少しの時間が出来るとつい東藤さんのことを考えてしまう。 「どうかしたのかい?」 「悩みがあるなら婆たちに話してみるがえぇ」 「……ありがとうございます。でも大丈夫です、元気ですよ」 心配そうに声を掛けてくれる皆さんに見え見えの空元気ぶりを発揮する。でもそんな態度は皆さんにはバレバレのようで── 「まぁ、この年頃の娘が悩むことといったら色恋沙汰だわな」 「そうじゃな。早速あぷろぉちでも受けているんじゃろう」 「これだけの器量良しじゃ、引く手数多なんだろうさな」 「えぇなぁ、羨ましいなぁ」 「……はは」 見当違いな意見で盛り上がる皆さん。 (でも……あながち間違いじゃないのかな) 色恋沙汰とまではいかないにしろ、今、頭を悩ませているのはそうなるかも知れない人のこと。
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