第三章 美女に、迫られました。

11/24
767人が本棚に入れています
本棚に追加
/362ページ
(だからあんな間違えを──) 不意に蘇った苦くて苦しい記憶に一瞬吐き気がした。 「うっ!」 思わずえづいてしまってその場にしゃがみ込んだ。 「はぁはぁ……ん……はぁ……」 吐き気はすぐに治まったけれど気分の悪さはまだ続いていた。 「……」 此処に来れば何かが変わると思った。 今までの自分をリセットして新しい一歩を踏み出せると……そんな藁にも縋る想いでやって来たというのに──…… (何も変わらないじゃない!) しゃがんだままそんな事を考えているとカランコロンとお店の扉の鈴の音が鳴った。 「こんにちは~」 聞き覚えのある声に慌てて立ち上がった。 「あら、美野里ちゃんいたの。姿が見えなかったからいないのかと思っちゃった」 「すみません、ちょっとしゃがんでいて」 来店したのは蘭さんだった。 昨日お店で見たようなバッチリメイクに煌びやかなドレス姿じゃなくて、すっぴんに近いナチュラルな感じのメイクに白シャツにデニムパンツというラフな格好が目を惹いた。 (わぁ、明るい処で見ると蘭さんって凛としていてカッコいいな) 女性に見惚れてしまったのはこれが初めてだった。
/362ページ

最初のコメントを投稿しよう!