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そこは都内にある、とあるレンタルスペース。
24時間貸し出しをしているその会議室は、その日夜の23時から翌朝4時という妙な時間に予約が入っていた。
けれど全ての手続きがネットで完了するシステムだったから、管理者も不思議に思いつつ口出しはしなかった。犯罪などに利用されては堪らないが、申し込み時に身分証明書とクレジットカードの登録をする決まりになっている。
だから今まで大きな問題は起きた事がない。妙な時間の利用であるが、その時間帯に働いている人間などこの東京にはいくらでもいる。鍵は指定の住所に送った。『東京都調布市富士見町……』よくある住所だ。
そして当日23時、その会議室に利用者達が集まり始める……。
「えー、そんな訳で、第385回『定例妖怪会議』を執り行います! よろしいかな? 皆さんおそろいになっとる? んん!?」
会議室の一番前、ホワイトボードの前に台を構え、声を張り上げるのは『ぬらりひょん』である。どうやら彼がこの会議を取り仕切る司会者であるようで、会議室に居並ぶ妖怪達を見回してその数を数えている。
「ひのふのみのよの……あんれま、今回はたったの26人!? 前回、春に開催した時には48人も参加頂いたのに! こりゃ、妖怪界になんぞ一大事が起きとるんじゃ……!」
慌てたように言うぬらりひょんに、最前列の『子泣きじじい』が手を上げる。「はい、子泣きじじいくん」と威厳を醸した声でぬらりひょんがそちらを指さし、子泣きじじいは椅子を立つと意見を述べ始める。
「いやあ、ぬらりひょんさん。この暑さやもんでなあ。我々四国の妖怪は遠慮させてもらおう言うもんがようけおりまして。あたしらみたいな人型の妖怪は電車を乗り継いで東京まで来れますが、『伊予の大だぬき』さんやら『阿波のお松猫』さんやらは、もう歩いては無理じゃちゅうて。よろしゅうにお伝え下さいちゅうて言付かっとります。はい」
子泣きじじいが椅子に戻ると、今度は会議室の後ろの方で 挙手するものがいる。ぬらりひょんは「はい、座敷わらしちゃん」と幾分優しげな口調で言ってそちらを指さす。
「あのねー、私もお願いされて来たの」
『座敷わらし』は手に鞠を持って、もじもじしながら口を開く。どうやらあまり注目される事に慣れていないらしい。
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