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「『雪女』のお姉ちゃんが、『夏はやめろ』って。『殺す気か』って言ってた。今年は暑いから、氷室が溶けて大変みたいなの。仕方がないから、マグロ加工の工場で働こうかなんて言ってたわ。あそこには、マイナス40℃の冷凍庫があるんですって」
おお……と会議室を嘆きの声が包む。昨今は妖怪にとって生きていきにくい世の中になったとは皆感じていたが、とうとう命が危険にさらされるまでに至るとは。
ぬらりひょんは椅子に戻る座敷わらしにうんうんとうなづき、それから大きな声を響かせて言い放つ。
「嘆かわしい! なんと嘆かわしい事か! 我々妖怪一の美形を誇る雪女ちゃんが、身の危険にさらされた挙げ句にバイト生活とは! この事態をどう見る! いかが思うか賢明な妖怪の皆様方よ!」
若干芝居がかったぬらりひょんの演説に、しかし集う妖怪達は胸を熱くする。こんな事はあってはいけない。妖怪は、あまりにも人間に軽く見られてしまっているのではないか!
「季節は夏! 人間共が怪異を欲する季節が来た! 今こそ、我ら妖怪の恐ろしさを知らしめる時! さあ立ち上がろうぞ、勇ましき妖怪族達よ!」
お、おおー! と会議室のそこここで力強い声があがる。拳を高く突き上げているのは 『青坊主』だ。真っ青な肌をした一つ目の彼は女好きで有名であるが、どうやら雪女を憎からず思っていたらしい。
会議室が一体になったのを確認して、満足げにぬらりひょんはたくわえたひげをなでる。それから調子を変えて、具体的な話を進めていくのだが。
「では、それぞれの御仁に『人間討伐』の具体案を聞かせてもらおう。これぞというアイデアをお持ちの方、ぜひ挙手を頂きたい!」
……とたんに会議室は静寂に包まれる。
先程まであれほどいきり立っていた青坊主も、すんと澄ました顔になって椅子に収まっている。誰もぬらりひょんを見ようとはしない。議長であるぬらりひょんは眉をしかめ、うらめしげに妖怪達を見回す。
「……これだからいかん。前回の会議もだんまり対決じゃったが、今回も皆持ち合わせておるのは勢いだけか。……全く、こんな事では人間を駆逐するのはいつの日になるやら……」
ため息まじりのぬらりひょんの目に、おずおずと手を上げるものが映る。
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