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「ボルゾイ……? って、“ここにおるぞぉーい”……みたいな?」
眉を軽く寄せながら、優希が紙芝居の台詞のような口調で冷やかす。
「昔ばなしのおじいさんのセリフじゃないよっ」
おちゃらけた親友に、私は笑いながらツッコミを返す。
平日の昼間でも、駅前のシャインロードはそこそこの人通りがある。
紫外線が意外ときついこの時期の日差しを避けるように、道行く人々は街路樹のケヤキが落とすタイルの上の色濃い影を辿るように歩いている。
「ボルゾイはねぇ、大型犬なんだけど、その昔ロシアの貴族たちに愛されたオオカミ狩りのための犬でね? 被毛が長くて美しくて優雅で、物静かで気高い雰囲気の犬なんだよ」
「へぇー。で、そのボルゾイがどうかしたの?」
私と優希は二人で会う時の定番のカフェで今年初めてのテラス席に座り、おしゃべりに花を咲かせている。
「そのボルゾイが最近うちの店に来るようになったんだけど、その子がめちゃくちゃ綺麗な子でさ」
私はキャラメルマキアートのクリームをスプーンですくって舐めながら、アリョーナという子の姿を思い浮かべてうっとりした。
「ふわっふわな毛が、シャンプーするとさらに柔らかく光沢が出てね……。あの白くて豊かな胸毛に顔をうずめて、もふもふしたくなるんだよねぇ……」
「はいはい。せっかくお店がお休みだからこうしてお茶しに来てるのに、瑚湖は仕事を離れても犬の話だもんねぇ」
優希は呆れたように苦笑いしながらホットのカフェラテを口に運ぶ。
ショッピングモールのアパレルショップで働く優希の勤務はシフト制。今日みたいに私と休みが合う日はだいたい二人で出かけるんだ。
高校時代からの親友は、この二年半ずっと恋愛話を提供できていない私の犬の話を、毎回我慢強く聞いてくれる。
けれども、今日はとっておきの話があるんだ!
優希のその死んだ魚のような目を、私のコイバナで輝かせてみせる!
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