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話題が切り替わるぞと言わんばかりに、私は咳払いをコホンと一つしてから、前のめりに肘をついた。
「でね……。そのボルゾイの飼い主さんが、すごーく素敵な人なの! 初めて来店したときに、”うわー! かっこいい!” って思って……」
「ふぅん。男性なんだ、その飼い主さん」
コイバナにふさわしいテンションで伝えたつもりだったのに、親友はイヌバナの延長としかとらえていないような抑揚のない反応だ。
鮮魚のような活きのいい目にはほど遠い。
「ちょっと優希、久々のコイバナなのに反応薄すぎない? ほんっとぉーに素敵なんだよ! トリマーやってると、飼い主とパートナー犬って顔や雰囲気が似てるなって思うことが多いんだけど、彼とアリョーナもまさにそんな感じでさ。ボルゾイの雰囲気そのままに、美しくて、優雅で、穏やかで、でも近寄りがたい気高さがあって……」
「コイバナなのかイヌバナなのかわからない表現ってどうなのよ!? とにかく、近寄りがたいってことは、奥手の瑚湖のことだからまだ何のアプローチもしてないんでしょ?」
親友の鋭すぎる指摘に、前のめりだった重心が少し後ろに下がる。
「だってぇ……。大切なお客さんだし、逃げられたら困るもん。下手なことはできないよ」
「でも、せっかくピンときたんでしょ? 前カレと別れてから二年半だよ? いい加減瑚湖も本気で恋愛モードに入らないと、どんどん恋愛できない体質になっていっちゃうよ?」
優希は頬杖をついていた手の人差し指を突き出すと、ビシッと私の鼻先に向けて痛いところをついてきた。
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