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確かに、”もう恋なんてしない” と優希の前で泣きじゃくったあの日から、私の恋のアンテナはだんだん錆びついていっている。
そんな私の錆びかけたアンテナが、彼には反応したんだ。
ここでスルーしたら、アンテナはさらに錆び続けて、そのうち何にも反応しなくなってしまうかもしれない。
優希の指摘で私の顔に少し焦りの色が出たのか、彼女がにやりとした。
「で、そのボルゾイの彼の情報を瑚湖はどこまでキャッチしてるの?」
「まだ、顧客カードに書いてもらった、池崎馨かをるっていう名前と、住所と、携帯電話の番号だけ」
「じゃ、次に私と会うときまでに、瑚湖はその池崎さんとお店以外の場所で会う約束を取り付けること! この宿題ができなかったら、次のランチは瑚湖におごってもらうからね!?」
いたずらっぽく笑った優希が、膝の上でおとなしく寝ていたパピヨン愛犬のヒメを抱え上げて、そっとテラスのテラコッタタイルに下ろす。
ヒメはうーんと前足を伸ばした後、パタパタッと優雅な飾り毛を揺らして身震いした。
「えっ!? もう出るの? まだ優希と健太郎君の話聞いてないよ!?」
「私たちは相変わらずだよ。もう三年も付き合ってるんだもん。今さら話すネタもないよ」
優希はヒメのリードとショルダーバッグをそれぞれの手に持って立ち上がる。
「それより瑚湖の宿題を楽しみにしてるからね! さ、ヒメとチョコ太郎を散歩させながら帰ろ」
「あっ、待ってよぉ!」
私はカップに残ったキャラメルマキアートを慌てて飲み干すと、床にねそべっていたカフェオレ色のトイプードル・チョコ太郎に「お待たせ!行こう!」と声をかけて席を立った。
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