二章 二幕 いざや行かん南方視察

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 早々にローザを部屋に下がらせてしまうと、ナタリアはシャイアと共に自分たちの部屋へと向かった。その宿場の最高級だという部屋はなるほど広さも造りも申し分無い。侍女二人の寝室が入口の右手に誂えてあり、当然そこにはカレンとニシナを呼んだ。嫁いで初めての旅行で心細いという事にしておけば、他の侍女の反感も買うまい。  あとは広間と寝室が二つ。手洗い洗面も備え付けてあり、酒や果物も置いてある。  他の侍女と使用人はそれぞれ男女別に四人部屋を幾つか借り、意見役とアッガーラにも二人ずつの部屋を用意した。一先ず今日は視察は止めて休もうという事に相成ったので、各々が夕飯を済ませるとアッガーラは街の酒場へ、シャイアとナタリアは部屋へと戻った。  広間の長椅子に腰掛けると、シャイアは深いため息を吐いた。ここの所頭の痛い問題が続いているが、今日の街の様子は予想以上にキた。 「……シャイア様、どうかお気を確かに」 「あぁ、もちろん。……と、言いたいんだが、めげそうだ。まだ陽のあるうちから娼婦が街角に立っていたぞ。警吏も居ない。領主宅に滞在する事にしなくて正解だった」  愛嬌が取り柄であるはずのシャイアが、髪を乱して自嘲している。その姿が痛ましいと感じたナタリアは、カレンとニシナを呼んだ。 「今からシャイア様と貧民街へ向かいます。分からないように護衛して頂戴」 「畏まりました」 「ナタリア……?」 「さぁ、支度をしますよ」  支度? と首を傾げるシャイアを前に、カレンとニシナが笑顔で迫った。 「いつの間にこんな服用意してたのさ……」     
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