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「諜報の基本です。その街についたらその街の服を買います」
顔を崩すような化粧をしたナタリアは商家の使用人のような姿を、シャイアはその商家の子息といった格好をして街を歩いていた。
どの店も明々と灯りをともし、大いに賑わっている。それはいいのだが、やはりどこか下品だ。
「前に来た時には、そりゃこんなに文化のある街ではなかったけど、もっとずっとちゃんとしていた。文明開化を嫌がっているわけでは無いんだが……」
「新しいことには、何事も苦しみが伴います」
ナタリアの迷いない言葉に、シャイアはまた自嘲気味に笑う。
「本当、そうだよね。私は今苦しんでいる、それこそ文明開化なんて止めて鎖国してしまおうかという程に。しかし、それでは戦争で失うだけ失った事になる。いかんば事情があったとはいえ、それは避けたい。失う事に慣れてしまうような国にはしたくない」
「シャイア様のそのお心があれば大丈夫です。私もついて参ります」
「ありがとう。……でもどうして急に貧民街へ?」
「それは、シャイア様のお考えと一緒ですわ」
その様子を寂しそうに見ながらナタリアの先導で歩き、何度目かの角を曲がると、それまで感じなかったのに酷い悪臭が鼻に突いた。
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