二章 三幕 貧民街

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二章 三幕 貧民街

 酷い汚臭がした。  汗、糞便、尿、腐った食物、吐瀉物、そして、血。  それらがどこかで混ざり合い、どこかから匂いが発されているが、分からない。把握できない。  ゴミのように人が道端に転がっている。生きているのか死んでいるのかも分からない。 「これが……貧民街……」 「これがそうなわけではありません。まだ一時的なものでしょう。放っておけば疫病の温床になりますが」  淡々と告げるナタリアを、驚愕を顔に貼り付けたシャイアが見やる。彼女の目は貧民街へ向いたままだった。 「今はカレンとニシナが私たちを守ってくれていますが、本来このような場にこのような格好で来る事は望ましくありません。一瞬で追い剥ぎの対象となります」 「それを警吏は……?」 「止めるはずもございません。暴漢の収益は元締めの元へ一部還元されます。その元締めからの袖の下という鼻薬を嗅がされて、詰所で賭け事にでも興じている事でしょうね」 「そんな……」  貧民街ができかけている、と聞いてなんとなく想像していたのは、飢饉の村に近かった。しかし、現実はどうだ。飢饉どころではない。人が生きたまま腐っている。     
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