二章 三幕 貧民街

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 もちろん王都にも身分差はある。ブランデの中にも荒れた場所はあるし、全てを取り締まる事を求めはしない。きりがないし、人は皆が正しく生きられるとは限らない。正しさの基準だって違う。  だがこれは、間違っている、とシャイアの目には映った。 「どうですか、陛下。まだ心は折れていませんか」  ナタリアが静かに問う。  文明開化は悪い事ではない。新しい文化を取り入れるのは大事な事だ。怖いから、という理由で新しいものを遠ざけてしまうのは間違いだ。  ただ、もっと慎重になればよかったと、今ならば思う。ソロニア帝国はそもそもが新しい出来事に慣れた船乗りの国。此方は真反対の農民の国である。保守的で伝統を大事にする、それでもその守るべきものを失った時、新しいものを得る欲をもって次へ進むことが出来ると。  そう、思っていたのだが。 「心はもう、砕けた」 「陛下……!」 「だから、入れ替える。私が間違っていた。視察だけでは済まさない、全ての対応を終え、そしてから王都へと帰ろう」 「! はい、シャイア様!」  ナタリアが花が咲いたように笑う。彼女はそう、恐れていたのだろう。ここ最近のシャイアはずっと思い悩んでいたのだから。敢えて逃げずに現実を突きつけ、覚悟を問うたのだろう。 「心配をかけたね。もう大丈夫さ、明日は視察の後にザナス辺境伯邸へ行こう。一先ずは私の領地として、この地を清浄にしなければ」     
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