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二章 四幕 オペラの血筋
あの惨劇の後が大変だった。
アッガーラ達は王妃がやったのだと悟ったが、悟ってしまっただけに動けない。
この技の冴えはこれまで十数人を殺してきた技では無い。それこそ、こんな状況などいくらでもあったのだろう。そしてそれを全て一人で潜り抜けて来たのだ。このようにして。
「王妃、さま……」
二の句が継げない。
すっかりと固まってしまったアッガーラに、王妃は無慈悲に告げる。
「さぁ、今がザナスを連れ出す好機です。あとを頼みますよ」
ゾッとした。無表情なだけに、人をこれだけ屠っていながら何の感慨も贖罪の意思も見られない。人を殺した人間というのは……たとえそれがどんな屈強な戦士であれ……少しは罪悪感というものに悩まされるものだろうし、ないしは高揚感というものを得る者もいるらしいが、この王妃にはそのどちらも無い。
作業をこなした、という感覚に見える。
「ありがとう、ナタリア。よかったのかい?」
これは、技を人前で振るっても、という意味だろう。
アッガーラは独立した国。確かに友好な取引相手の国内に悪い情報を流す事は無い。王妃がこんな非現実的な事をしたという話も、信用される理由が無い。
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