二章 四幕 オペラの血筋

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「オペラ座は、もとより使う者と振るう場が無ければ錆びた刃になってしまうだけなのです。我々は兵の一つ、頭が無ければ胴は死ぬもの。……私は、あなたの役に立ちたいと思います。時にはあなたを危険な目に合わせる事も、あなたを諫める事も致しましょう。ですが、全てあなたの味方たらんとする思いからなのです」 「うん。そうだね、ナタリアはいつもそうしてくれている」 「……私はあなたに自分の正体を晒す前は、己の意思でこうしたい、と思う事はありませんでした」  目を伏せてナタリアは続ける。シャイアは言葉の意味が掴み切れずに首を傾げる。 「うん、と……?」 「例えば、シャイア様はどういった勉強がお好きでしたか?」 「そうだな、剣術と、歴史は面白かった」 「私にはそういう感覚がございません。必要か不要か、それのみです」  生きるのに必要ならば人の腸も食べるし、不要ならばどんな豪奢な晩餐も要らない。 「ですが、国を離れて……あなたの元へ嫁いでから、あなたが私を見つけてくださいました」  それは誰もが見逃すだろう感情の機微。今迄得て来た知識の活かし方。新しい考え方。守りたいと思わせる人の価値。 「私は今、何も考えずに従うだけの人形であった事を恥じています。今は自分の意思で、あなたのお役に立ちたいと自覚しています」  ナタリアは立ち上がってシャイアの隣に立つ。今日の月は満月、夜が青く光っている。 「どうか、いつかオペラ座のナタリアではなく、ただのナタリアとしてあなたのお役に立てる日が来るまで」     
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