二章 六幕 アッガーラの誇り

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 それを掌の上で踊らされていたと取るか、秘密を守る信を置ける相手と取るかはバルクの度量次第であったが、幸いにもバルクは後者であった。ナタリアは内心胸をなでおろしていた。 「バルク殿に頼み……いや、お願いがあるのだが」 「何なりと、国王陛下」 「二つ。一つは、頼む。そろそろシャイアと呼んでくれぬものか。貴殿は家臣では無い、そう呼ばれるのはむず痒い」  シャイアが改まって何を言い出すかと思えば、困ったように呼び方を改めてくれと願い出したのでまたバルクは腹を抱えて笑った。  失礼に当たるのは重々承知だが、こんな大国の王様というのはもう少しふんぞり返っていていいのだ。手中にはいつでも此方を噛み殺せる毒虫まで飼っているというのに(これを実際に言ったらそれこそシャイアの機嫌を損ねるだろうが)、なんともいじましい。  年下の青年()()()見えて笑ってしまったが、どれだけ身の内に毒を持った蛇を飼っていたとしてもこの王は気にしないらしい。  ならばアッガーラというならず者の集まりも、この王はまた、何も気にせずその身の内に留めるのだろう。 「ははぁ、いや笑っちまってすいません。そうですね、じゃあシャイア王、これでどうですか」 「もう一声」  市場でよく見る値引きの場面である。 「シャイア殿。――これ以上はまかりません」     
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