二章 一幕 文明開化の音がする

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 ナタリアが口元を押さえて身を乗り出すと、シャイアも頷いて身を乗り出した。密密話(ひそひそばなし)である。ここには話を隠すべき相手も隠せる相手も居ないのだが、意外と茶目っ気がある夫婦らしい。侍女二人はあからさまに聞こえていながらも壁際の花になっている。 「実は直轄地近くの街の貸金屋がどうにも拙い。貴族諸侯は勿論ながらシサリス戦争前の豪勢な暮らしを取り戻そうと躍起になる。そして借金だ。――その借金のカタに領民の税を上げさせて返済にあてさせているらしい。貸金屋の利率もとんでも無いとか」 「あらあら、経済戦争ですわね」  調子は軽いが声は真摯である。こうした時に一番に割を食うのは庶民だ。  市井からの出が多い館の者と暮らしていたからか、ナタリアは貴族諸侯の中では庶民に共感的である。 「ややこしいんだよね、その辺は今迄は文化に対して収入豊かすぎる位だったから、法も整備されていないから違法な事は無いんだけれど……」  シサリス戦争の後、ソロニア帝国との貿易は盛んになった。  文化交易が進み、他国の文化や文明、知識や技術、芸術や装飾品、様々な物が続々とヴァベラニア王国にも入ってきている。それはウルド山脈という隔てが無くなった事も大きい上に、アッガーラが以前より山賊を自分たちの民族に取り込み安定した生活を送らせているのもあるだろう。  悲しい事だが、未だウルド山脈に逃げ込む者はいる。地方で軽犯罪を侵し、村八分にあって逃げ出す若者等も多いのが現状だ。     
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