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シャイアは二人を見比べると、今度は勉強になりますと頭を下げた。
「南は酷い状況でした」
カレンの報告を受けたのは、六日後の昼、執務室での事だった。
王宮の中央棟一階にある執務室でシャイアが書類に埋もれていると、窓を叩く音が聞こえた。外を見れば、いつの間に手に入れたのかヴァベラニア王宮の文官の服を着たカレンがいたのだ。窓を開けてやると、滑るように中に入ってくる。と、同時にナタリアが執務室へとやってきた。帰ってくるカレンが見えたというが、今の彼女はどう見ても一文官、男の形であるが、そこは聞かない事にした。
そうしてカレンが開口一番に告げたのが先の言葉である。
「この国は農業大国。殆どが食べるに困らない生活をしているはずですが……南の街に貧民街ができかけています。早急に対処なされるのがよろしいかと」
「貧民街……? まさか。畑を取り上げる、ないしはその畑で働かせる農民を働けなくなどしたら、領土が回らなくなるぞ」
税を高くする事はあっても、それはあくまで食べていける範囲での話である。
よもやそこまで、と思ったシャイアの口を突いた言葉ではあったが、カレンは深刻な顔で首を横に振る。
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