二章 一幕 文明開化の音がする

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「いいえ、事態は一刻を争います。南で問題を食い止める事ができれば、今後王国の中でここまでの惨状になる事は無いでしょう。……あの領主はお心の弱い方だったようです。新しい物事に目が無く、新しい酒、新しい宝飾品、新しい芸術、そして新しい女……放蕩の限りを尽くしております。貴族と言うのは血統ですから、事前に食い止められないのは仕方が無いかもしれませんが……王の直轄地に準じて次に文明の流れてくる場所ですので、領地を取り上げお心の強い方にお任せする方が良いかと思われます」  これでもカレンは精いっぱい控えめに進言している。シャイアにはそれが分かる故に、否定する材料も無い。  領地を取り上げるというのは大問題となる。その為には一度査察に向かわなければならない。  その領主の処遇を決め、貸金屋との問題を収め、新しい領主を据える必要がある。  しかし、国内でそのように心の強い領主、となると、即位して一年そこそこのシャイアでは思い至らないのが現状だ。 「……ご苦労、カレン。暫く休んでくれ」 「畏まりました。失礼致します」  執務室にナタリアと二人きりになると、シャイアは深いため息を吐いた。  現状、陳情書や新しい法の整備に掛かる手続きで問題は目の前の書類のように山積みだ。  しかし、南を後回しにもできない。 「……草の者を南に放とう。私が南に行く『理由』が必要だ」  これで十日は無駄にするが、仕方が無い。カレンと同じ報告を受け取るには、どんなに腕の立つ斥候を使ってもその程度の時間がかかる。  ナタリア達御庭番についてはロダスにも明かすことはできない。となれば、それは必要な時間なのだが、知っているだけに腹の奥にもどかしさが燻る。     
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