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海がオレンジに染まる夕暮れ時、人混みから外れた岩陰で二人きり。夏の青い風が青子のポニーテールを撫でる。周りには誰もいない。
『……気持ちいいね。海に来て良かった。』
『そうだな。たまにはいいもんだ。』
『ずっとこの景色を見ていたいなぁ。……あなたと。』
『……え?』
くるりと僕の方を振り返った。その顔はどこか切なさを感じさせた。潤んだ目を閉じ、そっと唇を開く。
『あなたと……ずっと一緒にいたい。普通の関係じゃなくて、特別な関係になりたい。』
『それってどういう……?』
『こういうこと――。』
青子が近づいてきたと思った瞬間、僕のそれは温かいそれに塞がれていた。思考停止する。何が起きたのか分からなかった。それは一定時間続いた。僕は自然と目を閉じた。目の前の青子のように。
どれだけそうしていたのだろう。それがゆっくり離れた。青子の頬は薄く染まっていた。
『……こういうこと。これじゃあまだ足りないくらい。私は、あなたが好きなの。愛してるの。』
突然の告白に、僕は思考能力をすっかり奪われてしまった。いけないことなのに。許されないことなのに。考える前に勝手に口が動いていた。
『僕も……。僕も青子が好きなんだ。どうしようもなく愛しくてたまらないんだ。だから――付き合って欲しい。もっと言うなら、一つになりたい。』
言ってしまった。覆水盆に反らず。もう後戻りはできない。経験したことない激しい鼓動が耳元で鳴り響く。
『……嬉しい。私と同じ心でいてくれるなら、どんなことでもできる気がする。死んでもいい。一つになりたい。』
『青子……。』
今度は僕の方からそれを重ねる。青子はすんなり受け入れ、僕の背中に手を回す。互いの鼓動が重なり、溶け合う。どこまでも、どこまでも深い青の底へ――。
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