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 席に戻った僕に木島は言った。 「何言ってんだか全然解んないけどさあ、君面白そうだね。僕面白いこと好きなんだ。君といると面白いってことかな?」 「面白いのは僕ではなく桃尻だ。面白いと言ってもファニーではない、インテレスティングだぞ。奥が深い」 「肛門までの距離が深いってこと?」 「まあ薄尻ではないからな、そう浅くはないだろう。だが、ただただ無駄な脂肪でブヨブヨに膨れた尻や、どこが本来の割れ目か判別出来ないようなシワシワに垂れた尻とは違う、丸く張りのある尻だ」 「へえまあいいや、尻だけに焦点を絞ったことはないけど、僕も女性的な丸みのあるフォルムには魅力を感じるよ。それにやっぱきっと、君はインテレスティングだ。よろしくね」  僕達はこの講義で毎回グループを組むようになり、講義終了後はそのまま一緒に食堂へ向かうなど、行動を共にすることが多くなった。  この大学の入試の実技選択科目は、平面構成、着彩、立体の三種類ある。乾はその中で最も倍率の高い平面構成で合格した者の一人だ。乾は実技だけでなく学力も優れており、他科目での受験者も全て含め、入試の総合成績は二位だった。乾の学力をもってすれば関東の某超有名大学も合格圏内であったが、わざわざ莫大な引っ越し料金を掛けてまで道外へ出る必要性を感じなかった為、居住地近郊で美術を学べるこの大学を選んだという。「もし今後、院へ進学したいと思ったら、その時は本州も視野に入れるよ」とのことだ。でんと構えた態度が大物感を醸し出している。デジタルコンテンツを使用した制作に興味があり、メディア系の研究室への配属を希望している。長く延ばした前髪を左右に分けた中性的な髪型は、彼が現在傾倒している美少女育成恋愛ゲームアプリのキャラ、「はるきょん」と同じ型だ。前後左右斜め計八方向からのイメージスケッチを美容室に持参してこの髪型にして下さいと注文、美容師は「解りやすい!」とノリノリで切り、三十分足らずでカットは終了したという。恋愛ゲームなどやって虚しくはないのかと問うと、「この恋は所詮プログラム、実際には存在しない存在に翻弄されている、俺に忠実な彼女を育成しているはずが俺の方がこのプログラムの忠実なしもべになっている……ふと感じるその切なさが、また良いのさ」と答え、にやりと笑った。
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