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「で、百田はどうして桃尻に執着するんだ?」  僕が元いたあたりに四人で着席した。乾の低音ボイスは、まるで心臓を舐められるようなひりひりとした官能的な響きがある。僕は幼少期のイモ掘りのくだりから話し始め、桃太郎の真実を知ったことをきっかけに今の夢を持つようになったこと、以来桃尻を追い求め生活してきたことを話した。それは僕の半生を語るも同然であった。 「我々若者の追う夢に、重いも軽いもない。しかし、その内容がマイナであるだけで、人は僕を見下し、離れていくのだ」  つい弱音を吐いてしまった。誰かにここまで自分の話をするのは初めてだったので、興奮して喋り過ぎてしまった。  突然、門木が僕の左肩を上からバンと叩き、「ドンマイ!」と叫んだ。そのまま腕が体から離れて床に落ちるかと思った。 「お前アツいなあ!いっつもロビーのとこで座ってボーっとしてっから大人しい奴かと思ってたよ。そうだよな、そんくらいアツくないとあんな機敏なタンゴ踊れねえよな。俺は見下したりしねえよ、尊敬するぜ、お前のアツい心。やっぱ女の尻はプリンって丸くて張りがあるのが一番だよなあ!」  講義室中に響くキンキン声が、僕の左耳のすぐ側で爆発している。 「なるほど、納得した。俺も、百田の機敏なタンゴは、何か強い信念に基づいたものだと感じたよ。門木と同感だ、何年も変わらぬ信念を持ち続けてる百田を尊敬する。何か協力出来ることがあればするよ、百田について行く。女性の尻に対する評価についても同感だ」 「二人共……」  僕は不覚にも泣きそうになった。これが友情というものだろうか。 「機敏なタンゴ?え何それ、僕だけ見てないの?見たい見たい」  木島がそう言うので、僕は再び黒板の前で踊り狂った。つい先刻までヘトヘトだったというのに、友情パワーだろうか、力が際限なく湧き、いつまでも踊り続けることが出来そうだ。一通り踊り終えると、木島は無邪気な笑顔をして立ち上がり、凄い凄いと大きな拍手をくれた。周囲の学生達は、僕達をもういないものとしている。
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