優しい夜

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優しい夜

 幼い頃から、夜を恐ろしいと思ったことがない。  夜はとても静かで優しい。  だからと言って、日中、太陽の光が照らす時間が優しくないというわけではない。ただ、質が違う。  昼間の優しさは包み込む柔らかさだ。話したり笑ったり、誰かと共有できる温かさ。  夜の優しさは、その逆だ。いろいろなものを遠ざけて、独りにしてくれる優しさ。  大人になった今は特に、その有難さを感じている。  職場に行くまでに大勢の他人とすれ違い、大勢の人がいるフロアで一日仕事をして、また他人とすれ違いながら帰る。  休日であっても、例えば買い物に出たり友人と会ったりすれば、それだけ多くの誰かとすれ違う。  そして、いくら親しくても友人だって他人だ。家に帰り着くと、楽しかったという満たされた気持ちと一緒に、ドッと疲労が押し寄せてくる。  夜中、真っ暗な部屋で一人ソファに座り、ぼんやりと空を眺めていると、そう言ったものが全て遠くに感じられる。感情のスイッチが切れて、何にも考えずに、ただ何となく過ごすその時間が、私は何より好きだった。  そしてもう一つ、私が夜を気に入っている理由がある。  それは真夜中、私がそうして一人で過ごしている時にしか現れない、奇妙な友人がいるからだった。
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