2人が本棚に入れています
本棚に追加
視線を向けると、彼は立ち上がってひらひらと手を振った。
「それじゃあ、僕もそろそろ帰るよ。おやすみ、良い夢を」
私はそれに頷いて見せ、目を閉じる。眠りはすぐに訪れた。
翌朝目を覚ますと、鍵は開いているものの、窓はきちんとしまっていた。
それは、今も変わらぬ朝の光景だ。
彼が部屋に入るところも、部屋を出るところも、私は見たことがない。
ただ、暗い部屋で窓を開け、目を閉じていると、やがて彼はやってくる。そして、眠る私に別れを告げて去って行く。
彼は夜の優しさから抜け出たような人だ、と私はいつも思う。
彼と会話を楽しむことはあまりない。
彼に大丈夫? と聞かれて、大丈夫、と答えるその一言のために、私は窓を開けていると言っても良かった。
今日は顔色が良いね、とか、今日はしんどそうだねとか、彼は私の顔を見て何かしらコメントをし、それから、大丈夫かと聞いてくれる。
私はそれに大丈夫と答えて、あとはいつも通りぼんやりと過ごす。会話はなく、後は眠る間際におやすみ、と声をかけられるだけ。
昔と変わったことがあるとすれば、私が座っているソファの隣に、彼も腰かけて過ごすということくらいだった。
同じ空間に、並んで座る私たち。
最初のコメントを投稿しよう!