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 誰も、何ひとつ疑わなかった。  母が自分の店でさんざん飲んで酔っぱらうのはいつものことだったし、明け方まだ僕たちが寝ている頃に帰宅してお風呂に入ったのも、いつものことだった。 「お風呂で眠ってるのを、朝になって見つけて起こしたことは、前にも何度かありました」  青い顔でそう語る光弦に、中年の警察官はいたましそうな目を向けた。 「一応、不審死として扱わなきゃならないけど、死因ははっきりしてるからね、明日にはご遺体お返しできると思う」 「普通にお葬式できるんでしょうか? 何もわからなくて……」  弟の肩を抱いて支えながら質問する僕は、警察官の目にどううつっていただろう? 「2人とも未成年だから、おじいさんに連絡して来てもらった方がいい。お葬式のこともきっとちゃんとしてくれるはずだよ」 「わかりました。ありがとうございます」 「兄さん、俺が電話するよ」 「大丈夫?」 「うん」  痩せ細った体のせいもあって、光弦はとても弱々しく見えたことだろう。 「ああいう中途半端な年頃で親を亡くすと苦労するぞ」 「気の毒だな」  後ろの方でささやき合う声が、僕の耳に届いた。 ――ご心配なく。光弦に苦労なんかさせませんから。  笑いが浮かんでくるのを(こら)えるため、歯を食いしばってたら、ちょうどいい感じで目に涙がにじんできた。    光弦は、東京に来ないかという祖父母の誘いを断った。 「ほとんどこっちで育ったし、住み慣れたところがいい」  彼らはどう説得しても意志を変えない孫に根負けして、母の遺骨を持って帰って行った。 「光弦のこと、よろしく頼むよ」  昔ほど丁重じゃない態度でそう言われたけど、僕は気にしない。
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