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あれからもうすぐ1年になる。
「颯太、やっぱり同じ大学にしちゃだめ?」
レポートの資料を読んでいる僕のひざに頭を乗せ、光弦は甘えるような表情で見上げた。
「いいけど、学内で会ってもそっけない態度しか取れないよ」
「そんなの、今だって変わんないし平気。颯太がどんなふうに過ごしてるか見ていたいだけ」
「地味にやってるだけだから、つまんないよ?」
光弦のまっすぐな髪を指ですくように、さらさらと弄ぶ。この1年でずいぶん伸びた。
「颯太の全部を知っていたいんだよね」
ほっそり長い指が伸びてきて、僕の唇に触れる。
「僕を一番よく知ってるのは光弦だろ」
「……足りない」
細い目がさらに細められ、ほとんど閉じたようなそのすきまから、濡れた黒い目が僕を誘うようにのぞいていた。
「こんな明るいうちから欲情して」
「颯太こそ」
くすっと笑いながら、光弦は僕の太ももから下腹部に頭をスライドさせる。
すっかり手慣れた行為がはじまり、僕は資料を閉じてテーブルに放り投げた。
「夏がきたって感じるたびに、颯太が欲しくなる」
熱い吐息とともに光弦がつぶやく。
「あの日、倒れた颯太に口うつしで水を飲ませたことを思い出して、たまらなくなる。あれから俺のためにこの手を汚して……って、ぞくぞくしてくるんだ」
「僕も、だよ」
身も心もどっぷり罪に浸かったことへの後悔なんか、まったくない。
だけど僕は、これからずっと夏がくるたび、指に絡んだ母の濡れた髪の不快な感触がよみがえり、この手で命を消したことを否が応でも思い出すのだろう。そのことを光弦に伝えるつもりはない。
「愛してるよ、光弦」
夏がきたので、僕はまた罪と向き合わなければいけない。
「俺も颯太を愛してる。ずっと一緒にいて」
苦しいなんて絶対に言わない。
「うん」
愛しい愛しい、大切な光弦。
きみのためなら、どんな地獄も耐えられるよ。
(終)
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