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弟の光弦が行方をくらましたのは終業式の翌日、つまり3日前の朝のことだ。
いつものように起こしに行くとベッドは空っぽで、いつも持ち歩いているリュックがなくなっていた。スマホの充電器や、大事にしていた高性能のヘッドホンやタブレット端末もなかった。
机の上には「家を出る。バイバイ兄さん」と書かれたメモ。
弟は去年ぐらいから沈んだ様子を見せるようになっていて、ごはんもあまり食べなくなった。どこか悪いのではと心配したけど、体調は悪くないからほっといてと突っぱねられた。
そのうちじっくり話を聞こうと思っていたのに、日々にまぎれてなかなか機会がなく、こんなことになってしまって、心の底から後悔している。
「お母さん、光弦が家出した」
母の寝室にかけこんで訴えると、まだ眠りこけていたらしく不機嫌そうな声が返ってきた。
「別に死ぬわけじゃなし、家出したいんならほっときなさいよ」
絶句して立ちすくんだ僕を、母は気だるげな目で見つめた。
「そんなことより、足を揉んでくれない? 昨夜も遅くまで立ちっぱなしだったから、むくんじゃって」
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