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 東京に向かう新幹線は少し混んでいて、自由席は3人がけシートの真ん中ばかりが空いていた。2時間足らずで到着するはずだし、そこに無理に入って座るより、デッキに立っているほうがよさそうだ。  僕はドア付近に寄りかかって窓から外をながめ、顔を隠すためにしていたマスクを外す。  もう夏だからか、マスクをしている人などほとんどいなくて逆に目立ってしまう。髪をぼさぼさに散らせば少しは顔にかかるか……窓にうつる自分を見て、ため息を吐いた。  僕を産んで死んだ母は美しい人だったらしく、生き写しに育ってしまった僕は、望みもしないのに見知らぬ人から興味を持たれたり声をかけられたりする。  東京に着いたら人ごみにまぎれて誰も僕なんか見ないと思うけど、できるだけ目立ちたくない。 「光弦」  2つ下の弟は17歳の高校2年生。  僕たちが兄弟になったのは幼い頃だったから、弟はよく僕になついて、中学生になるまで同じ部屋で寝ていた。  光弦の父親がどんな人かは知らないが、母とは結婚せず認知もしてくれなかったようだ。同級生だったと聞いたことがあるから、恋人の妊娠を知って逃げたってことなのかもしれない。
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