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「きっかけはそうかもしれないけど、でも、光弦がいるから僕はあの家で生きてられる。光弦だけが、僕にとっては特別なんだ」 「けど、兄さんは……寝てるだろ? あいつと」  泣きそうな声だった。 「なんだ、知ってたんだ?」  僕はひざでにじり寄って、光弦に両手を伸ばし、その痩せた後ろ姿を優しく抱きしめた。 「光弦と離れたくなかったから、断れなかった。でも、嫌だったよね。ごめん」 「なんだよ、それ」  光弦は肩を震わせて泣きはじめた。 「お父さんが死んだからって、あいつ、どうかしてるだろ。義理っていっても、小さい頃から母親として育ててきた息子に手を出すとか、まともじゃない。いつから? もしかして、お父さんが死んですぐ?」  答えない方がいい。そう思った時には、うなずいてしまっていた。 「あいつ……まだ中学生の兄さんを」  光弦は(しぼ)り出すような苦しげな声で言った。 「でも、あいつと寝てるのに気付いた時、俺も兄さんに触れたいって……嫉妬したんだ。あいつの血が流れてるせいかな? 兄弟だし、男同士なのに、こんな気持ちになるなんてどうかしてるって、おかしくなりそうだった」  僕の腕のなかで泣きじゃくる弟は、とても哀れで、とても情けなくて、とてつもなく愛しかった。 「光弦だけを愛してるよ」  僕のことで、こんなに痩せ細るほど苦しんでいたなんて。 「兄さんが悪いんだ……こんなに綺麗な顔してるから、そばにいると変な気持ちになってしまう」  恨みがましく僕を見上げる光弦。  愛しくて可哀想で愛しくて可哀想で愛しくて……今まで生きてきたなかで感じたことのない高揚感と興奮が僕を突き動かした。 「愛してる」  光弦はひとつもあらがわなかった。
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