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(ひがし)、家出したって」 「まじで?」 「兄貴が必死に捜してるらしいよ。山田たちが部活帰りにつかまって大変だったってさ」  バス停にならんでいると、後ろの方からそんな会話が聞こえてきた。 「あいつの兄貴、ちょっと変だよな」 「母親が家事しないとか言ってたから、兄貴が親代わりみたいだけど、過保護っていうか束縛? しょっちゅうメッセージとか電話よこすみたいだし、毎日けっこう豪華な弁当作って持たせて、テストん時なんかメモ貼り付けてあった」 「メモ?」 「テスト頑張ってとか、そういうやつ」 「うわ……それは引く」 「去年あたりから激痩せしたのって、兄貴のことで悩んでたかららしいよ。きついって愚痴ってた」 「で、今どこにいんの?」 「東京でも行ったんじゃね?」 「なんで?」 「たしか、じいちゃんだかが東京にいるって聞いたことある」 「じいちゃんち行くんなら、家出とは言わなくね?」 「たしかに」  会話主たちは笑っていた。  僕はそっちの方を見る気にもなれず、そっと列を離れた。 「あっ、やべ……」  小さな声が耳に届いたが、ふり向かないでそのまま近くのコンビニをめざす。  弟が通っていた塾の夏期講習が今日からはじまるので、もしかしたら現れるかもと淡い期待を抱いて向かう途中だったが、今の会話を聞いて気が変わった。  コンビニのATMで3万ほど引出し、自宅に戻って自転車で出直す。目的地は数キロ先の新幹線の駅だ。
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