3、

1/3
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

3、

 光弦を連れて帰ると、母はつまらなそうに肩をすくめた。 「やぁね、好きにさせたらよかったのに」  息子が我が家に戻ってきたことが嬉しいようには見えなかった。 「ねぇ、光弦が東京のおじいちゃんとこで暮らしたいなら、あたしから向こうに頼んであげるよ」  猫なで声でそんなことを言う母に、光弦は眉をひそめた。 「それ、俺が邪魔ってこと?」 「そんなこと言ってないじゃない。あんたがそうしたいならって親切なのに」 「別に今のままでいいよ。今から学校変えるとかめんどいし」 「あっそ。ならそうすれば」  母はあからさまに白けた表情になり、ふてくされたように黙って自分の部屋に消え、再び出てきた時には光沢のある白いワンピースに身を包み、濃いめの化粧とエキゾチックな匂いの香水で武装していた。少し早いけど、もう出勤するらしい。 「颯太、後ろお願い」  くるりと背を向けた母のワンピースは、ファスナーが上がりきっていなかった。命じられるがまま、僕はそれをしっかり上げて留め金を引っかける。  一連の行為を、光弦はリビングのソファからじっと眺めていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!