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光弦を連れて帰ると、母はつまらなそうに肩をすくめた。
「やぁね、好きにさせたらよかったのに」
息子が我が家に戻ってきたことが嬉しいようには見えなかった。
「ねぇ、光弦が東京のおじいちゃんとこで暮らしたいなら、あたしから向こうに頼んであげるよ」
猫なで声でそんなことを言う母に、光弦は眉をひそめた。
「それ、俺が邪魔ってこと?」
「そんなこと言ってないじゃない。あんたがそうしたいならって親切なのに」
「別に今のままでいいよ。今から学校変えるとかめんどいし」
「あっそ。ならそうすれば」
母はあからさまに白けた表情になり、ふてくされたように黙って自分の部屋に消え、再び出てきた時には光沢のある白いワンピースに身を包み、濃いめの化粧とエキゾチックな匂いの香水で武装していた。少し早いけど、もう出勤するらしい。
「颯太、後ろお願い」
くるりと背を向けた母のワンピースは、ファスナーが上がりきっていなかった。命じられるがまま、僕はそれをしっかり上げて留め金を引っかける。
一連の行為を、光弦はリビングのソファからじっと眺めていた。
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