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14歳の時には制服でよかったけど、19歳の今はフォーマルを着る必要がある。
「お若いのでシングルがよろしいかと」
紳士服売場の店員に勧められるがままに、サイズの合う黒いスーツとネクタイを買った。
「今日も暑くなるみたいだね」
「うん。俺は夏服だからまだいいけど、兄さんは見るからに暑そう」
光弦は少し笑った口元を隠すように、顔の前で薄い手のひらを広げた。
自宅前でタクシーを待つ僕たちを、近所の人がチラチラ見ている。立ち位置を少しずらし、光弦の姿を隠し気味にした。実の母親が死んだというのに、この弟はよく笑うから、あまり人目にさらしたくない。
「おじいちゃんたちは斎場に直行するって。なんか打ち合わせとか色々やってくれるみたい」
「助かるね。今回は僕の出番ないかな」
「いいよ、たまには楽して欲しいし」
光弦はじっと僕を見つめて言った。
「これからずっと俺のために生きてもらうんだから」
僕はかすかに微笑む。
「兄さん、もし俺から逃げたら警察に全部話すよ?」
うなずいて見せると、光弦は満足そうに白い歯を見せて笑った。
「笑い過ぎ」
「だって……嬉しくてさ」
ささやくような会話を交わし、光弦はうつむいて手で顔を隠し、僕はそんな彼の肩に手を置いて沈痛な表情をつくる。
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