37人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
2、
東京駅で中央線に乗り換え、西へ向かう。
そして出発から3時間後、僕はようやく目的地の駅に降り立った。
うろ覚えでしかない道のりを進み、ちょっと迷ったけど、なんとか光弦の祖父母の家を見つけることができた。
記憶よりちょっと古ぼけてはいたが、2階建ての青い屋根の家はまわりより大きくて庭も広い。
よく手入れされた庭にはヒマワリが咲いていて、どこからかジージーやかましい蝉の声が聞こえる。気が遠くなりそうなほど、夏を感じた。
「兄さん」
大輪のヒマワリの陰から、見慣れた顔がのぞく。
頬がこけるほど痩せた顔の中で、切れ長の細い目が、射るような光を浮かべて僕をにらんでいた。
「なんで来たの?」
視界がぼやけ、光弦の顔もあいまいに霞んだと思ったら、目から涙がこぼれ落ちていた。
「俺、もう一緒には暮らせないよ?」
光弦の声は硬かった。
なにか言わなければと思うのに、乾いた喉がひりついて声が出てこない。そういえば朝から飲まず食わずだった。
「兄さんのところには帰らないから」
意識がふいに遠のいた。
最初のコメントを投稿しよう!