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「先輩。さっきのはるくんって何ですか?」
後輩の看護婦さんがナースステーションで問う。
「ミカちゃんは知らなかったのね」
後輩看護婦さんはミカ、と言うらしい。
「はい?」
「ヒナちゃんにはね。仲の良かった友達が居たの。その子がはるくん」
先輩……佐竹は話し始めた。
「そうね……二年くらい前なんだけどね……
本当に可愛い女の子にしか見えないような見た目の男の子だったんだけどね。ヒナちゃんの隣の病室に入って来たの」
「え……ヒナちゃんの病棟は……」
「そう。治る可能性の極めて低い重症な患者さんの病棟よ。ヒナちゃんもそう言う扱いであそこに居るのは知ってるでしょ?もちろんヒナちゃんはその事を知らないけど」
「はい……」
「そこに来たのが春日 小春くん。はるくんね。あの子はね、心臓の病気だったの」
「……じゃあ……」
「……そうね。ミカちゃんの思ってる通り。でも、今は聞いてね?」
「はい……」
「病気の事はヒナちゃんにはずっと話さないままだったの。それはヒナちゃん自身が自分の事があるし聞かなかったのかもしれないし、はるくんがヒナちゃんを思って話さなかったのかもしれない」
「二人は毎日話をしたり、病院内を散歩したり、一緒に食事したり本当に仲良しだったわ……」
「……」
「でも、ね。ある日、はるくんは風邪をひいたの。はるくんの症状からただの風邪でも命取りになりかねない。だから、その日はヒナちゃんと会えなかった。そして、その夜に……亡くなったわ。やっぱり身体が耐えきれないくらいに弱っていたの」
「ヒナちゃんはその事を知らないし、その日会えなかった記憶がね……。だから、次の日に、はるくんがいつもみたいに遊びに来てくれると思って待ってたの……だけど、はるくんは……もう……」
「……そんな……」
「それ以来ね……ヒナちゃんは、ああして隣の病室に行くようになったのは」
「もしかしてあの部屋に人を入れないのは……」
「そうね……長く入院しているヒナちゃんへの病院からの気遣いって事でしょうね……あそこに他の患者さんを入れてしまったらヒナちゃんは自分の記憶違いかと混乱してしまうし……」
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