第一話

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 金城敦也(かねしろ・あつや)はアパートの自室で目を覚ました。  数体のメカの模型やフィギュアが棚の上から見下ろす部屋で、淡々と朝食をとり、身支度を整える。それが終わるとオートバイに乗って出勤する。  町の外れのだだっ広い空き地に面した、敦也の勤務先、機械部品製造の有限会社葦原製作所には、続々と社員が出勤してきていた。朝礼を終え、いつも通り、それぞれの仕事を開始する。  二十八歳入社七年目、着実に腕を上げる期待の若手社員である敦也が、今、取り組んでいるのは、元請けの会社から提供された合金系新素材を使った部品の試作だった。条件を変えて試作を行い、元請け会社から出向している材料工学の研究員の湯池彩瑠(ゆのいけ・たみる)や、工場長など先輩職人の意見も仰ぎつつ、作業を進める。昼休憩の時間が来ても試作品と向き合う敦也に、近くを通りかかった社長の葦原栄治(あしはら・えいじ)が声をかけた。「敦也くん、仕事に夢中なところすまないけど、お昼もちゃんと食べてね。今日は午後から球技大会だし」  午後になり、葦原製作所の社員たちは、会社から堤防一つ越えた大きな川の河原に向かう。社長の妻の由喜(ゆき)や母のマスエも来て、川っぷちの草野球場で、取引先の減産にともなう空き時間を活用した社内球技大会という名の草野球の試合が始まる。六~七十代のベテラン職人たちから揶揄まじりに「エース」呼ばわりされて、渋々ながら敦也もマウンドにバッターボックスに大活躍する。やがて、社長の娘で小学四年生の深緒(みお)や、息子で定期テスト期間中の中学三年生の廉一朗(れんいちろう)も帰宅し、観戦に加わる。  試合は一進一退で進む。マウンドに立つ工場長の穂村(ほむら)に対して、敦也が何度めかのバッターボックスに立つ。それなりの勢いで投げられたボールを、敦也のバットが確実に捉え、ホームラン必至、というより誰もが打球の行方を心配した時。ボールが飛んだ空中に目もくらむ閃光と轟音が発生し、光の中から直径一メートルほどの青紫色の球体が現れた。
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