第一話

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「若大将、今度の球技大会は大玉転がしもやるのけ?」 「さ、さあ……」  七十代の職人のひとり富田銃造(とみた・じゅうぞう)と社長が思わず間抜けな会話を交わした次の瞬間、球体は草の生えた地面に落下する。呆気にとられる一同。しかし、球体が自ら大玉転がしのようにゴロゴロと転がり出し、人間たちのいる野球場めがけて向かってくると、あわてて用具を抱えて逃げまどう。停止や方向転換を繰り返し、あたかも人間たちを追い回すような動きを見せる球体は、ついに堤防を転がり上がって反対側に下りる。敦也を始め主立った面々も、それを追って堤防に上る。  その時、再び異変が起こる。彼らの四方数キロの空間が半透明の壁で切り取られたかのように区切られ、空中に電光が走り、小型機械を引き連れた巨大人型機械が何体も現れたのだ。さらに、その人型機械が言葉を発する。 《待て、現時人がいる! そんな時点に転移するとは……やむを得ん、捕獲ではなく、この場で抹消する!》  機械群は球体に攻撃を浴びせる。球体は跳ね回って逃げるが、間断なく攻撃されて埒が明かない。ついに堪忍袋の緒が切れたように空中高く飛び上がった球体から、子供めいた言葉が発せられた。 《バっカヤローっ!! いつまでもどこまでもしつこくしつこく追って来やがって、そんなら今度こそ徹底的に相手してやらあっ!!》  その途端、球体の近くにあった葦原製作所の社屋や設備や製品が地面ごと引きちぎられ、球体に向かって吸い寄せられる。吸い寄せられた物質は、球体を中核として、周囲の人型機械よりさらに一回り巨大な人型機械を形作る。敦也たちは知るよしもないことだが、それは、青紫色の球体がこの場に現れる前にとっていたのと同じ姿だった。  かくして空間内で人型機械同士の格闘戦が始まる。荒々しく暴れ回る大型人型機械によって、数で勝るはずの機械群は次々に撃破され、空間そのものにも影響が及び始める。 《因果断層がもう保たない……!? 化け物めッ!! ひとまず撤退する!》  生き残った機械群は再び電光を発生させて姿を消す。 《逃がすかよっ!!》  大型人型機械がそれを追おうと身構えた時、敦也は弾かれたように前に踏み出していた。 「……おい待てよ!!」
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