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とある日、僕は気づいてしまった。それは青天の霹靂だった。
それに気づいてしまって、僕は生きていくのが嫌になった、怖くなった、泣きたくなった。
小さい頃によく眺めていた蟻の行列。面白がって水を流したり、道を塞いだり、砂の山に埋めたり、そんな事をしていた。
成長するに連れてもちろんそんなことはしなくなったけど、気づかない内に蟻の行列の前に立ちはだかっていることはあった。蟻は僕を綺麗に避けていくだけだった。
巣穴から列を作り、女王蟻のもとに餌を運ぶ。健気で従順で働き者で――蟻の話はよくそういう風に離聞かされた。あなた達もそうなりなさい……って。
反吐が出る。
今考え直すだけでも、思い直すだけでも、足元は揺らいで食べたものが逆流してきそうになる。嗚咽が喉を締め上げる。
「違う、違う、そんなわけない、私は違う、違う、違うの……!」
道端で突然しゃがみこんで唸りだす私を奇異な目で見ては過ぎ去っていく人々。
目を離した後はもう思い出すことはない人々。
「気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪いキモチ悪いキモチワルイきもちわるい」
重く厚くドロドロとした息を吐き出す。吐き出し尽くす。
そうでもしないと切り替えられなかった。
ヨロヨロと力が入ってるかイマイチ分からない足で踏ん張って立ち上がる。
うん、やっぱり、耐えられないよ。
『カチッ、カチッ』
金属の擦れる音。
立ち上る油の香り。
何も思わず気にせず人は過ぎていく。
僕の指先は熱を帯び始める。
「はは……ははは……」
くぐもった笑いがおかしいくらいに口から漏れていた。
「くふ、くは……あははは……」
何もおかしくないのに。おかしいことはないのに。
僕がきっとおかしいだけなのに。
それでも、気づいてほしい。
僕が気づいたことに。
僕が感じだことに。
僕の嘆きを、悲しみを、絶望を。
『カチッ、カチッ、カチッ、カチッ』
どんどん音は早くなる。まるでシャープペンの芯を押し出すように、ボールペンの芯の出し入れを無駄に何回もするように、早く、強く、たしかに大きくなっていく。
ねぇ、なんで、誰も止めてくれないのさ。
道から外れた僕をどうして誰も…………。
どうして…………。
お願い…………。
誰か…………。
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