4.意外な正体

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 「フェニキアン・ローズ」のデータベースに、ゴダードの設計図はなかった。だが、エウロパの基地には、詳しい情報があった。すぐに、(といっても、電波が届くまでに1時間ほど必要だったが)、1・7テラバイトに圧縮された詳細な船のデータが送られてきた。 「間違いありません。あの船はゴダードです。葉巻型の本体は設計図と93・9%合致します」 「残る6%はイオンエンジンだな」 「はい」 「地球の船となれば、話は別だ。ゴダードの隅から隅までにフルスキャンをかけろ。特に生命活動の有無について、徹底的に調べる」  先ほどまで感じていた疑問にはこれで一応合点がいった。第1宇宙速度、地球の言語、船内環境…地球の船なら当たり前のことだ。しかし、同時に先ほどとは比較にならない大きな疑問が次々と湧いてきた。  3世紀以上の時を経て地球の船がなぜここにいるのか、乗員はどうなったのか、地球外と思われるテクノロジーを装備しているのはなぜか…。ウオルコットは混乱しながらも、かろうじて船長としての任務を忘れないでいた。 <取りみだして、上船した四人の不安を増幅してはならない> 「ゴダードは地球船籍と判明した。すぐにブリッジに向かい、乗員から詳しい事情を聴取してくれ」  ウオルコットが冷静を装って命令すると、すぐにシェリルが返信を寄越した。「待ってたわよ。退屈で居眠りしちゃうところだった」 「迎えに来られない何かの事情があるのかもしれない。こちらもフルスキャンをかけているが、そちらも充分気をつけて」 「了解! さあ行くわよ」  ブリッジ内のスクリーンでも、4人が歩き出した様子が分かった。心なしか歩みが速い。  しかし、勇んで踏み込んだブリッジも空だった。中央の一段高い位置にある船長席、その前にある操舵手のコンソール。隣には機関部員が座るべき席もあった。壁際にはレーダーや分析装置が並んでいる。科学部のクルーがここで仕事をするのだろう。全体的に古臭い造りだったが、ブリッジの配置は地球の船と概ね同じパターンだ。だが、どの席にも人間の姿はなかった。 「まるで幽霊船ですね」  マスチェラーノがぽつりと漏らした。 「ナカジマ、航海日誌を探せ。何か事情が分かるかもしれない」  ナカジマはシェリルのカメラに向かって頷いた。「了解です」
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