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世界は回る
「パパ、ママのところへ送るわ」
フィルムが終わって、パパの目に涙が浮かんでいるのを見た。
「キャロル……! パパは大丈夫だ。君にはまだ父親が必要だよ」
パパはそう言ってくれるけど、パパの具合が良くないのを知ってる。
こっちのお医者さんが匙を投げたって、ママならきっと治せるわ。
ママは魔女だもの。
パパの手を握りしめてその青い瞳を見つめ返した。
「いいえ、わたしはもう一人でも生きていける。パパ、今までありがとう。ママによろしく」
パパは泣き笑いみたいな顔でわたしの髪を撫でて言った。
「キャロル、お誕生日おめでとう。
今夜は僕がプレゼントをもらったね。完璧な夜だったよ。一生忘れない。愛するキャロル」
完璧な夜。
素敵な言葉。
ママがわたしを産んだ日もきっと完璧な夜だったはず。
わたしにはここでやることが残ってる。
すべて終わったらわたしもパパとママのところに行くわ。
それまで少しの間お別れ。
私はビッグベンのてっぺんで風に吹かれた。
真夜中の鐘が鳴る。
ピーターパンがネバーランドへ子どもたちを連れていくように、パパもママのいる場所へ旅立った。
そうママのいるところは普通の人には行くことができないネバーランドのような場所。
年にたった一度、特別な真夜中にだけ扉は開く。
その時を知るのは魔女。
小さなコウモリが夜空を飛んできてわたしの足下にとまった。
わたしの戦いはこれからだ。
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