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「病める時も健やかなる時も……」
僕たちの結婚の誓いは、誰もが誓い合うそんな伝統的な言葉ではなかった。
「わたしと結婚するなら、今誓って欲しいの。
わたしたちの子どもは次代の魔女。星から名前を受け取れなければ、十歳までも生きられない。
だから、わたしたちに子どもが産まれたら、あなたは必ずその子の名前を受け取りに行くのよ。どんな危険があろうとも、必ず」
輝く月光の下、美しい黒髪をなびかせた彼女はそう言った。
もちろん僕の答えはイエスだ。
救急救命士として働き始めた僕は、ドクターヘリで患者の救出に向かう途中、山中にヘリから放り出された。
幸いたいした怪我はなかった。
けれど、ヘリは消息を絶ち、僕は帰る方法も誰かに連絡する方法もないまま森を彷徨った。
もしグレースが助けてくれなければ、僕は今頃熊に襲われていたか、崖下に転落して顔の潰れた身元不明遺体になっていただろう。
彼女は小さな村に住む魔女だった。
もちろんその頃の僕は、魔女なんて物語の中にしかいないと思っていたよ。
彼女が魔女であること、彼女の言葉がすべて偽りのない真実だということはしばらく一緒に暮らすうちに確信できた。
彼女は時計も電話も持っていない。
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