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一 吉五郎、山をおりる
時は戦国時代。
尾張平野のまんなかに、こんもりとした小山があった。
東西に長く、東のほうに山頂があり、西にむかってなだらかに下っていた。ちょっと見には、古墳のようにも、ひょうたん島のようにも見えた。山全体を木々がおおい、四季おりおりのすがたが美しかった。
はるかな昔には人も住み、木の実の採集や狩りなどで暮らした。時が下って稲作がさかんになると、人々は田をたがやすため、里におりて生活するようになった。
いまや人影はなく、ときどき猟師がこそりと入ってくるだけだった。
こそりと。
そう。音もたてずに、おどおどと。
イノシシやシカなど、えものを見つけたら、さっさと仕留めて、かついで走る。いそいで逃げないと、ひどいめにあうからだ。
この小さな山には、人にかわって、ここを代々のすみかとしてきたものがあった。
それこそ、猟師がおそれるキツネである。
キツネは古来より神のつかいとされ、とくべつな力をもっている。なかでもこの山のキツネは気が荒く、力もすぐれていた。そのすみかに侵入した者は、見つかったら、まず、ぶじに下山することはできない。えものをとりあげられたうえ、こっひどく化かされるのだ。
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