9人が本棚に入れています
本棚に追加
2045年7月 東京
黒スーツに連れられて辿り着いたのは、無機質な部屋だった。
歓迎する気など全くない。そこは、ただ人を苛めるためだけの部屋だ。
周囲を見まわしながら、アオはそう思った。
パイプ椅子に座れと言われた。
前には事務机が置かれていて、それを挟んで黒いスーツを着た、表情のない中年の男が座っていた。
感情のない眼がアオを睨みつけている。
「改めてホンジョウ アオ君だね。かつてのシロダの右腕。現在は大学の準教授にして、ナノマシン研究の専門家だ。……いくつか君に質問をさせてもらう」
黒スーツが淡々と言う。
その遠慮のない無礼さに、なによりあの人の名前を粗雑に呼び捨てるしぐさに、アオは腹をたてた。
「自己紹介もなしに、いきなり質問ですか」
アオは憤りを顔に出しながら言う。
「自己紹介は立場上できない」
黒スーツはアオの不機嫌を気にもせずに告げて、
「君は今日、横浜の山下公園で奇妙な行動をとったね。あれは何だったのかな?」
そんなことを淡々と続ける。
アオは黒スーツの正体を察していた。
警察公安部。
国家の犬の中でも、取り分け優秀で、取り分け忠順で、そして取り分け狡猾な連中だ。
国家の裏側にベットリと根を張り、国家の裏側を取り仕切っている。
最初のコメントを投稿しよう!