あの日の彼女と私の風鈴

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これを、青と表しても良いものだろうか。 どこかから見たら緑になりそうで、またどこからか見たら紫にも見えなくはなさそうだった。 彼女はあの夏、私に一つの風鈴をくれた。そこには青なのかよくわからないようなグラデーションと、小さな三つの白い花。 私の誕生日でも、彼女の誕生日でもない。もしかしたら、あれが彼女なりのさよならだったのかもしれない。 私と彼女は特になんの変哲も無い中学校からの友達で、私たちの間で何かこれといった大きなイベントのようなものはこれといって起きなかったと思う。もしかしたらあったのかもしれないが、いま思い出せないということはまあそういうことなのだろう。 結局思いかえしてみれば学生の青春だなんて言われるものは、風のようにやって来た出来事に対してその時にだけ一瞬、騒ぎ立てるだけで、結局後にはなんの余韻も残さないものなのだと私は思う。 なんてことを、部屋の掃除をしたら出て来た風鈴を手に取りながら考えてしまった。 気づけば、朝には台風の後のような有様だった部屋は夕立のあとほどになり、いくらか人様に見せられる程度になっていた。 少し休憩にして、スイカでも食べようか。 重い腰をあげると縁側から少し、外の熱気をはらんだ風が部屋を通り抜ける。 風が吹いたその時一瞬、風鈴が鳴った気がして、私は彼女の風鈴をかけたS字フックを見上げた。 私に見上げられた風鈴は真っ青で、 後ろの空に同化して 鈴の音の余韻なんて残さずに すっとどこかの空に溶けて 消えてしまった。
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