0. 出会い

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死のうと思ったのはこれで何度目だろうか。まあ、何回だっていい。もともと生きてる理由もなかったのに、仕事もリストラされてしまって本当になにもなくなってしまった。今回こそ俺は死ぬんだ。 梅雨も終盤にさしかかり、今にも雨が降りそうな天気でジメジメした暑さが続く。 ビルの屋上にいるからだろうか、風がいつもより強く吹いている。そういえば少し早めの台風が日本にやってきたってテレビで見た事を思い出す。 フェンスを越え、下を見渡すと平和な日常がただただ進んでいる。この日常ともおさらばだ。別に悔いはない。運動も勉強も出来ずに人と関わることも苦手。何をやっても上手くいかなかったんだから。俺は空中に身を投げ出した。 ビルから飛び降りると時間の進む速さがゆっくりになった気がした。視界がだんだんと狭くなっていく。確か、人は長い間宙に浮いていると反射的に意識を失うんだっけ。ああ、俺はもう死ぬんだな。意識が遠くなっていった。 「…っと、ちょっと、ちょっと山田さん!聞こえてます!?おーい!」 ビルから飛び降りたはずなのになかなか地面に着かず、少女の声が聞こえ、俺は思わず目を開けた。 「えっ!えっ、ちょっ、うわぁ!」 目を開けると、そこはまるで写真のフィルムのように時間が止まっていた。口を除いて俺も体を動かすことが出来なかった。 「大丈夫ですよー、山田さん。まだ死ねませんから。ねっ」 陽気な声でそう言いながら、その声の主は俺の視界に入ってきた。黒くて長い髪に、白いワンピース。大きな目のついた可愛らしい顔の少女は、驚いている俺を見ていたずらな笑みを浮かべていた。 「な、なんなんだよお前!」 「私ですか?私はですねー、んー。少女?死神?天使?ですかね」 「は?」 「実はですね、山田さんの思い出を食べさせてもらいに来たんです!」
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