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入院して初めて自分から話しかける。
「看護師さん、聞いてもいいですか?」
話しかけても返事しかせず、何も興味を示さない私の言葉に驚いていた。
「いつも元気よく朝、挨拶してるおと・・この子、いますよね?」
「うん。大部屋の佐伯さんの息子さんの事かな? 野球やってるっていう?」
「坊主頭の・・日焼けした・・・」
「そうそう・・・。佐伯さんの息子さんだわ。どうかした?五月蠅かった?」
その言葉に動揺してしまう。
「いえ!全然。元気がよくていいなって・・・。」
五月蠅いなんて言われて、あの挨拶が聞けなくなるのは私の楽しみが減る事になる。
「夏子ちゃん、羨ましいんでしょ? 外に出たいわよね。こんな良い天気なんだしね。」
「うん・・・。私、幽霊みたいに白いでしょ? いいなって、思って・・。」
そう答える。
物心ついたころから此処にいた。
内臓の病気で絶対安静。
ベッドの名前の所に書かれている。
安静度、2。
安静度2……トイレや歯磨きなど、身の回りの事は動いていいが、必要以上に歩きまわってはいけない。検査で下の階に降りる時は、車椅子使用だ。
前は3カ月に1回のペースで外泊して家に帰っていた。
でも妹が大きくなり、忙しくなると帰りたいと言う言葉もでなくなった。
帰っても・・私は邪魔だから。
家でも幽霊みたいな私。
「あの子は確かに真っ黒だったもんね。でも夏子ちゃんは女の子なんだから、白い方がいいわよ?
七難隠すっていうでしょう?」
「あの人、お母さん、大丈夫なんですか?毎日お見舞いに来てるから・・。」
「うん。大丈夫。そろそろ退院じゃなかったかな? 息子さんも練習に身が入るようになるわね」
良かったけど・・・・もう、もうすぐ君には会えなくなるんだね?
あの青空が見える明るい挨拶も、眩しい君の背中も、ささやかな私の楽しみもなくなるんだね。
良い事なのに、残念に思うなんて、やっぱり私の心は真っ黒なんだと思った。
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