夏子

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夏が近づいて予選が始まった。 野球に興味のなかった私が、この1年で野球少女になった。 病気は相変わらずだった。 外泊許可は取れそうだったので、応援席に行く事は出来そうだ。 徹君のチームが勝ち続ける事を祈った。 決勝戦まで勝ち進み、いよいよ明日決勝戦だ。 これに勝てば甲子園、約束の場所だ。 その日は朝からソワソワして落ち着かなかった。 信じてた。でも、気がつくと病院を抜け出して、タクシーに乗って試合会場に来ていた。 応援席の隅に座り、得点ボードを見た。 最終回、点が入らなければ負けだ。 私が来るのが遅かったのか、来てはいけなかったのか……負けてしまった。 人の事で泣いたのは初めてかもしれない。 気がつけば、大粒の涙が出ていた。 試合が終わり人が少なくなっても、私は動けずにいた。 (来ては、いけなかったんだ…。) そう思った。 私はこんな青い空の下に居てはいけない人間なんだ。 全ての悪い事が自分の所為のように思える。 「こんな暑いとこに、帽子もかぶらんで… 倒れるぞ?」 タオルを頭にかけられて、眩しくて彼が見えない。 「ごめん。 ごめん…… 私の所為だ。約束、破ったから。」 「アホか! 約束、破ったのは俺の方。 ごめん。勝てんかった。夏子ちゃんは、ちゃんと応援席に来てくれた。ありがとう。」 徹くんの言葉に、涙はまた溢れた。 「いい、試合だったね。 いいチームだね。」 泣きながらそう言う。 「うん。 いいチームだったし、良い試合だった。ああー最後のあおはる、終わったぁ……」 応援席、隣に座って言う。 「そっか。 私も目標がなくなっちゃった。」 2人でぼうっと試合の後の球場を眺めた。 「練習から解放されるから、世間の事を勉強しようと思うんだけど、今、流行りの曲って何?」 涙を拭きながら、夏子は真剣に考えた。 「なんだろう? 私も最近、野球漬けだったから… 分かんない…。」 「ぶっ……… あははは。じゃ、2人で勉強しますか。次の目標ね。」 「勉強は、嫌い。」 「今度は受験あるからね。一緒に大学目指してみます? それもあおはるじゃないの?」 真面目な顔で徹君は言う。 「いいの? 私と一緒で…」 「うん。君といると? 考えると頑張れる。君は僕の力の源です。」 青い空を背中に背負い彼が言う。 どこまでも広がる、私の自由が。
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