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受験日、待ちわせ場所に夏子は来なかった。
心配して家に連絡したけど誰も出なかった。
自宅にかけると母が、
「連絡してみるから、あんたは受験行きなさい。夏子さんだって後から来るかもしれないしね。」
言われて受験会場に向かった。
夏子が受けたかどうかは分からなくて電話した。
今度は夏子の母親が出て安心する。
僕の問いに母親はこう答えた。
「昨夜、具合が悪くなって専門の病院に入院しました。連絡出来ずにすみません。」
内臓疾患の人は急に容体が変わることはよくあることらしい。
「大丈夫…何ですか?」
「良くある事ですから。もう普通に話せますし、大丈夫ですよ。」
3日後、直接電話が掛かってきた。
夏子は待ちわせに行けなかった事を謝る。
俺の受験の心配をする。
俺は夏子の身体を心配する。
「ちょっと長くかかりそう。来年も無理かも。 ごめんね? 」
すごく明るく言うから余計に不安になる。
「まだ、俺も合格とは限らないし、落ちてたら、来年2人で頑張ろうな。」
「大丈夫。徹は受かってるよ。保証する。受かったら教えて?」
「分かった。」
不安はついて回った。
合格発表の日は、明るい陽射しの中青い空が広がり、
「皮肉だな。」
と、心から思った。
本当なら夏子と良い天気だね、何て言いながら、青空の下合格を喜びあっていただろうに……と思うと、悔しい。
俺は…合格していた。
こんなにも嬉しくないものかと思う。
約束通り電話する。
「おめでとう。ほら、大丈夫だったでしょ?」
明る過ぎる夏子の声。
「良い天気だよね。 青い空、あの夏の試合の時みたい。」
「うん。」
「もう、お見舞い来なくて良いよ。 」
「なんで?」
「今のとこ、遠いから大変。大学生は忙しいよ? サークルとかも入って、勉強以外にも勉強する事、いっぱいあるって。」
「行くよ。夏子に会いに行く。」
「私はひとつも約束守れなかった。もう、約束はしたくない。大学生になったら綺麗な子たくさんいるよ? すぐ私の事何て忘れる。私は忘れる。もう、疲れちゃった…止めよう? お互い、約束に縛られるの。 試合は負けた。そこで終わってたんだよ。元気でね。他の人とあおはるして? バイバイ。」
夏子が何を言っているのか理解できないまま、電話は切れた。
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