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一方的に、夏子は話して通話を切った。
夏子の家に電話してみたが入院先は教えてもらえなかった。
「同情は、お互い辛いですよ?」
夏子の母親にそう言われた。
「同情……そんなんじゃありません。」
「時間が経てば、気付く事もあります。家族でも大変で…受け入れられない時もあるんです。同情では長続きはしません。傷ついて、泣くのは夏子なんです。」
夏子の母親は、言うだけ言って電話を切った。
(同情? これは同情なのか?)
大学生になってからも、時々、俺は考えた。
確かに応援に来て、と最初に誘ったのは同情だったかもしれない。
母親への親切へのお礼だったかもしれない。
でも、あの試合の日。
負けた直後、応援席に彼女を見つけた時。
雲ひとつない青空、真夏の暑い太陽が照り付ける中、外に出た事もないだろう真っ白な彼女が泣きそうな顔でそこにいた。
必死な顔で、自分が負けたみたいな…。
それを見た時、それまで絶望感でいっぱいだった自分の心が、すーっと洗われる気がした。
真っ暗な暗雲が晴れて、青空が広がる気がした。
真っ白な彼女の必死な顔が、悔しさでいっぱいの俺の黒い心に、青空を連れて来た。
「あおはる」なるほど。僕のあおはるはまだあるんだな、と思えた。
この子とあおはるがしたい、と思えた。
それは同情では絶対にない。
それが分かってから何度連絡しても、夏子の希望だからと、教えてはもらえなかった。
大学生活は楽しいし忙しかった。
充実もしていた。
自分で言うのもなんだが、それなりにモテたりもした。
でも、「あおはる」とは思えなかった。
どんなに可愛い子がいても、違うな、と思ってしまった。
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