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夏子の家を訪ねた。
夏子の話から、最寄駅と町の名前は聞いていた。
葉書は病院に送っていたし、会うのもお見舞いで家は知らなかった。
「家の近くに大きな公園があってね?小さいけど池があるの。
そこを散歩するのがすごく好きなの。」
小さい頃から入院ばかりで、時々帰ると、必ずそこを散歩するのだと、話していた。
懐かしい目で…まだ、若い夏子が。
「公園………。」
右側、300メートルくらい前に公園が見えた。
(池……ないかな。池が、あれば…)
走り出した。
「はぁ…はぁ……い、け……池!あった!」
柵の外から、池を確認して、飛び上がり喜んだ。
夏子の町、ここが夏子の散歩していた公園。
それだけで嬉しかった。
肩にしな垂れるよりも、耳元で笑われるよりも、ここにいない夏子が、歩いた場所を歩くだけで、幸せな気分になれた。
その場所で、顔を見た人に声掛けた。
次から次に……。
「高田さんていうお家がこの辺りにあると思うのですが、ご存知ないですか?」
公園で散歩してる人…片っ端に聞き、首を振られて落ち込む。
無駄な事をしているのかも……と、今頃、野球バカを呪う。
体力で押し切ろうとする……俺の悪いとこかな。
少し休憩して、立ち上がり空を見上げた。
青い空は、夏子が俺を待っている気がした。
「分かってる……これはある意味、危ない奴だ!」
空に向かい言う。
それでもいい…俺はまた、歩いている人に声を掛けた。
「高田さん?知ってるよ?斜めの家だ。」
お祖父さんが不意に答えを呟いた。
「あの、訪ねたいのですが、教えて頂いても?」
お祖父さんは怪しげに俺を見る。
「悪そうには見えないけど…そういうのが危ないんだろ?教えて何かあったら困るし……。」
何度も頭を下げて、説明した。
娘さんと知り合いだ…入院している場所が知りたい。
根負けしたお祖父さんは、俺に向かい言った。
「家は教えてやれない。人の家だ。うちは教えてやる。
うちにおいで?高田の奥さんが見えたら話しかけるといい。
道で偶然会って、話す分に自由だろう?」
「ありがとうございます。」
お祖父さんの家にお邪魔した。
窓の外を眺めて、夏子の母親の姿を探した。
会ったのは2回位しかなかった。
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