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お祖父さんの娘さんが帰宅して、 「高田さん?奥さんなら今、会ったわよ?」 と、家の前ですれ違ったと言われて、慌ててお礼を言い、頭を下げて家を出た。 「高田…。」 表札に小さく夏子の名前。 インターホンを押し、出て来た夏子の母親は、ただただ、驚いていた。 それでもリビングに通されて、お茶を出してくれた。 「突然、すみません。あの…どうしても、夏子、さんに…会いたくて。」 「受験の時は、お約束していたのにごめんなさい。夏子も気にしていました。 合格、おめでとうございます。」 「あ、いえ…。どうも…。」 夏子の母親は当然だが、歓迎はしていなかった。 「専門の病院に移りましたが、難しいようです。良くなったかと思えば…また倒れる始末です。あの子は一生……あの病気と付き合っていくしかありません。働く事も出来ないかもしれません。 障害者雇用なんて、所詮、一部で。 あの子の様に内臓の疾患は、人の目には見えないし、安静が大事です。 事務くらいは出来るでしょうけど、急に休む様な人間を会社は取りません。 私達は親ですから、嫌でもあの子を見るしかありません。 言いましたよね?中途半端な同情は、あの子を傷付けるだけですよ?」 「すみません。はっきり申し上げて、障害者とか、雇用とか……難しい事はお、僕には分かりません。 ただ、会いたい。 それが駄目なら、病院の住所を教えてもらえませんか? ハガキを…出したいのです。せめて、夏子が面白いと言ってくれたハガキを……お願いします。」 膝に手をついて強く握り、頭を深く下げた。 今も、これからも、これまでも…闘って来た夏子に、母親から見たら俺は邪魔者なんだろうなと、思えた。 「会いに行くのは、辞めて下さいね?女の子です。見られたくない事も……あると思うので…。」 テーブルの上に、小さなメモをスッと出してくれた。 「あ、りがと…う、ございます…。」 「まだ…諦めてないみたいです。大学…。徹君に大学でせめて会うんだと…勉強しています。あなたと知り合うまで、何もやる気のない子でした。 大学も行かせる気はありませんでした。 高校もまともに行けてないのに、最後の最後に卒業のために沢山、課題を提出して……。あんなに頑張るのは初めて見ました。 ハガキ……書いてあげて下さい。喜びます。」 何度もお礼を言い、夏子の家を後にした。 道路に出ると蝉の声がうるさい位に聴こえて、空が…どこまでも続いて、その向こうに夏子がいるのだと、考えるだけでワクワクした。
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